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大人の工場見学

JICO(ジコー)という会社、ご存じかしら。

正式名称は日本精機宝石工業と言って、兵庫県に工場があります。私が知っているJICOはもちろんレコード針を作っている会社。私はSHUREカートリッジの色々なモデルを持っていますが、それらは40年近く前に購入していますから針がなかったり、磨耗しているものがほとんどだったので、JICOで針を購入したのが知るきっかけでした。

https://jico.online

そのうち、オーディオ好き?の私はJICOと繋がりが出来て、新企画の針を開発時に意見を交わす試聴会に、参加することとなりました。

新橋 堀商店

先日、東京オフィスが新橋に移転し、そのお披露目イベントがあったので行ってきました。築91年のビルで、未だに堀商店という名前が残っています。国の登録有形文化財として登録されているそうで、この古さゆえのデザインなどは大好き。こんなビルで仕事が出来るなんて、本当幸せだなぁと… ただ、オフィスはかなり狭くなったそうで、ビル内を探検させて頂きましたが、確かに「かなり、いや、とても」狭いです。(笑) 一瞬、私の会社もここ?と思いましたが、かなり狭いのでプリプロスタジオには向かないかな、と…

時間がなくて地下を見ることは出来ませんでしたが、屋上まで整備されていて、本当に素敵なビルでした。

イベントでは、音楽ライターの田中伊佐資さんとテクニクスの上松泰直さんが、レコードをかけながらJICO針をいくつかデモンストレーション。木製カンチレバーのプロトタイプ2機種も試聴して、どちらが「好き」かのアンケート取っていました。

ここ、大事なのですが「どちらが良いか」ではなくて「好き」なんです。聴き比べたのは「紅木」と「ピンクアイボリー」と呼ばれる木材を使用したもので、ピンクアイボリーが高評価でした。発売されるのかな?

上松さんってテクニクスの社員なのに、プレーヤー、アンプ、スピーカーをいろんなイベントへ運んで、皆さんにレコードの音を聴いてもらう、ということをしています。年間100本以上?とか言っていたかしら。私が知っているのは、プロデューサー立川直樹さんのレコードイベント。JICOイベントの次の日は、大阪で立川さんと一緒と言っていましたから、精力的ですね。  テクニクスの製品で揃えたレコードの音は、とてもバランスが良いものです。つくづくレコードってすごいと思う瞬間です。

会場では大塚さんによるDJ

イベントの二日後、田中伊佐資さんと私とで、兵庫県のJICO工場へ行ってきました。

伊佐資さんはJICOとのつながり深くて、仲川社長と一緒に中古レコード店を巡る「パタパタ」というYouTube動画も人気ですし、もちろん針の開発にも意見を言っている方。今年JICOでスタートする「feel records」という企画で新たにオーディオ試聴部屋を作っているらしいのですが、そのセッティングのために一緒に伺いました。私はその作業見学とお手伝い、そして大好きな工場見学です。

鳥取コナン空港

台風の影響で空はかなり荒れていて、伊丹へ変更するかもしれない条件付で鳥取空港へ。鳥取はどこもアニメ空港となっているのですね。コナン空港になっていました。天気の悪い鳥取空港にはバウンド2回と超急ブレーキでしたがw、ほぼ定時で着陸。そのまま昼ご飯です。JICO仲川社長が行ってみたいと言っていた、鰻屋さんへ予約なしで突入。 一尾丸ごとという「大名」、美味でした。仲川社長と伊佐資さん、鰻大好きらしいのですが、過去イチ美味しかったそうです。私も。
関東と違うのは、西日本では鰻を蒸さないこと。焼きです。実は私は初めて食べたような…

お店の雰囲気が大変よく、風情のある素敵なところでした。うかがったところ、うなぎより鮎が有名なお店らしく、6月からは鮎がメインだそうです。しかも酸素と綺麗な水で生きたまま店まで運んでもらうので、刺身があるそうです。この日はまだ5月末…食べたかったなぁ。

JICO 日本精機宝石工業工場です。(正面の写真撮り忘れ…) 天気が悪かったのですが、ザ日本海側という色合い、私は大好き。メインの通りからの曲り角も覚えられないような、ごく普通の住宅地?にポツンとあります。
給水塔はもちろんバクダットカフェ?

今年から始める「feel records」というインバウンド向けの企画を進めるにあたって、工場の一部を改装してお客さまをお迎えして、針を作っている所を見学するコース、JICOのカートリッジや針でレコードを聴いていただく試聴室出来上がっていました。

ウェルカムルームのオーディオセッティング中の奥君と伊佐資さん。メイン試聴室の内容公開はまだだと思われるので写真は控えましたが、スピーカーJBL 4343にガラードプレーヤーと古いMcIntoshアンプ類、ALTEC A7にトーレンスプレーヤー、トライオードアンプ。2つのシステムで聴き比べをして音楽を楽しめます。他にDJセットもあり実際に楽しめます。こんなシステム、夢ですね!!

皆さん、工業製品ってどのように感じられるでしょうか。工場でオートメーションで自動的に作られるというイメージ、私も持っています。しかしレコード針の製造は、想像を絶するものでした。全てが手作業…小さなダンパーゴムは素材からゴムを作って成形している、って気が遠くなるほどの作業工程です。

工場は昔ながらの町工場(私の憧れ!)そのもの。年代物の機械がたくさん並んでいます。

ダンパーのゴムも素材を調合して練って熱加えて成形、検品。それを一人の方が行っています。もちろんメーカー別、モデル別で全て違うわけで、ゴムを成形する金型もメチャクチャたくさんありました。ダンパーは1mm程度の大きさ…気が遠くなります。w JICOで作っているゴムは経年劣化がとても少ない、と評判なので長く安心して楽しめます。

多数のダンパーゴム金型

こうやって一つ一つを自社製造しそれを組み立てるのは、今のご時世だととても能率悪い!、かもしれませんが、これこそ一つのものを作り上げる上で、一番大事なことではないかとも、見学しながら感じていました。
季節によって熱を入れる温度、時間も変えなければいけないわけで、ほとんど生物作っている感覚ですね。非効率=悪、っていつから言われ始めたのでしたっけ…

各メーカー歴代の針が参考資料として何段にも…

カートリッジなどに使うプラスチックの色も自社で色を調合して作るため、その材料が大量に保管されています。こちらは色見本と混合機。色を調合することによって無限大の色が作れます。
保管されている原材料も時間が経つと色が変わっていってしまうらしいので、買い直さなければならないそう。大きな一部屋にセメント袋のような原材料が所狭しと並べられていました。

それぞれの工程はあまりにも細かすぎて、すごいとしか言いようがありません。何故、こんなに面倒臭いことをしているんだろう、と。しかも、一人でも欠けると製品作れなくなります。

私は昔ながらのこのような工場が大好きで、時間があったらもっとたくさん写真を撮りたかったのですが、大急ぎでの見学でした。見るところ、感じるところ、沢山ありすぎて大変でした。w

JICO 日本精機宝石工業はレコード針の会社だと思っていたら、他の工業製品も作っていました。ここは機密保持性高い場所なので写真はNGでしたが、元々縫い針から始まっている会社ですから、その高い技術から様々な製品を作っています。詳しくはこちらで。

https://www.jico.co.jp

今回は工場見学がメインだったのですが、ご好意で針を作らせて頂きました。

東京新橋でのイベントで、JICO技術者である奥君がデモンストレーションでMORITAシリーズのカンチレバーを削っているのを見て、あぁ私もやってみたい!と社長にポロッと言ったのが始まりです。w

JICOにはMORITAシリーズという針があって、JICOのベテラン技術者である森田さんがちょっとした「遊び心」で、木材を使ってカンチレバー(ダイヤモンドなどのチップが付いている棒の部分)を作ってみたところ、音質的に良かったので製品化されたものです。私もMORITAシリーズの「黒柿」という木材で作られたカンチレバー針を愛用しています。その他「牛殺」という木で作られたものもありますが、木材の性質から音質は違い、その違いがオーディオ好きの心をくすぐられるわけです。

その黒柿を削り出しから私がやってみる!というものですから、もう夢のような話。w 社長すら削ったことがない、という作業です!

奥君と森田さんの作業場。お互い微妙に遠い距離があり、緊張感のある作業場。静かです。

技術者森田さんの下には奥君という弟子もいて、彼が全てを受け継いでいくのですが、本当に繊細すぎてなぜこんなことが出来るのだろう、というくらいの作業です。機械では出来ないのです。人間凄すぎ。

まず、5mm程度の角棒に細くカットされた「黒柿」を時計用旋盤で削っていきます。黒柿は柿の木の中に稀に墨色のような黒色が樹の中心部に入る部分を言います。私も勘違いしていましたが、黒く塊になっているのかと想像していたらマーブル模様なものが「混じっている」感じです。なので、黒い部分でも削ってみないと全部が黒柿なのかどうかわからないそうです。素人が見ても歩留まり悪すぎ…w この辺が自然を相手にしている感じがあります。

黒柿部分がマーブル模様の5mm程度の角材。

正確に測ったわけではありませんが、長さ7mm程度、直径1mm程度のカンチレバーになるよう、慎重に削っていきます。黒柿を削った感じは鉛筆のような黒檀のようなイメージ。もちろん全ての作業は顕微鏡を使いながら。

ゆっくり、ただ刃を当てるのではなく、崩しながら削っていくという感じでしょうか。削る量やテーパーなどの形はジグがあるので大丈夫なのですが、力入れすぎたりスピードが速かったりすると、削った部分がガタガタになり、後で修正が効かなくなってしまうので、メチャクチャ緊張してやっていました。(2本くらい失敗)

次にテーパーがかかったカンチレバーの根元を、専用ドリルで削り真っ直ぐな形に修正。次に紙やすりのようなもので表面を磨いて木片から切断。私の周りに立って見守っていた社長や伊佐資さんの方が、どうも緊張していたようです。(笑)

カンチレバーを削り終えたら、今度はその先端にチップ(レコードに当たるダイヤモンド針)を入れるための穴を、0.25mm(だったかな…)のドリルを手で!回して開けていきます。もちろんそのセットはしてもらいましたが、木材の道管2本分の真ん中に開けるのが良いそうです。顕微鏡での作業はなかなかしんどいし、穴が貫通したかどうかよくわからないまま、森田さんに確認してもらうのを何度もお願いして…さぞ、邪魔なことだったでしょう。(笑)

その後、ダイヤモンドがついた筒状のチップを先端の穴に入れるわけですが、筒状チップがほとんど肉眼では見えないほど。長さ1mm程度、直径0.2mm?くらい。最初、冗談かと思ったくらいで、どこにあるの?と何度も聞いたくらいです。

こんな小さなものを穴に入れるなんて人間業では出来ないはず…  というわけで、もちろん最初の一つをやっぱり!飛ばしてしまい、無くしてしまいました。あのチップひとつで幾らするんだろう…💦

その後、森田さんの作業場に戻ってトライしますが、飛行機の時間も迫り、結局森田さんに残りを作ってもらいました。途中の作業を顕微鏡で見させていただきましたが、神経使いすぎる工程は十分に理解しましたし、これを続けて最高の針を作っているのは、本当にすごいことです。言葉で伝わるか少し心配ですが…

このMORITAモデル、MMカートリッジの針としてはかなり高価なものですが、この作業を考えると安いと思えるくらい… 「もの」の素材価格や完成品で価値を決める人には多分理解できない世界かもしれませんが、機械には作れない、人にしか作れない「もの」の世界が、ここにはありました。

森田さんに最終工程を仕上げていただき、その後フェアライトに着磁(M44-7カートリッジ用の通常を5とすると4.8程度に下げました)、出力電圧を測り(4.6mV計測しました)検聴をしていただき、ついに完成です!

ちなみに、森田さんの作業している椅子や道具などは、他の人が触ったことがないそうで、社長ですら触ったことがなかったそうで、そんな大役を私がして良かったのかなぁ…と、今更ながらドキドキしていますが。

3時間だけJICO特別社員?(嘘)として、制服も着させて頂きました。工場のリフォームデザインを担当した牧田さんが新たにデザインをしたGジャンですが、なかなかオシャレで素敵なのです。(これ欲しいと思う人、たくさんいるはず)そして特別に森田さんとツーショットも撮影させていただきました。これはもう宝物レベル! 知る人ぞ知る、世界のMORITAさんです。

私はレコーディングにも携わっていますが、カートリッジはマイク、針は表現難しいのですが、マイクのダイヤフラムや年式?、PhonoEQはマイクプリアンプ、というイメージです。例えばMMカートリッジはダイナミックマイク、MCはコンデンサーマイク、みたいな感じ。

私はラジオ番組用にレコードからの音源をリッピングしますが、既にカートリッジや交換針は数十種類以上、Phono EQは6種類の組み合わせから、レコード音源に合ったものを選んでいます。まぁ、その日の気分、ということも多いですが…w

元々、カートリッジにはそれぞれ専用の針が一つだけだったのですが、JICOはそれを各人が求める音を追求するために、多様化を進めていくつもの針を作っています。SHURE M44用の交換針だけで、どれだけの種類があるでしょうか。オリジナルの音を追求した針はもちろん、JICO製のM44カートリッジもあります。私は現在M44-7に黒柿、V15typeⅢにボロンを愛用しています。私の古いM44が、JICOによって元々持っているポテンシャルをさらに格上げさせていて、現代でも十分通用する良い音です。

実際レコーディングでは楽器や歌声によって適切なマイクを選びます。マイク、プリアンプの組み合わせは無限にあって、ピアノにはNeumannやAKGのマイクでマイクプリアンプはM1にしよう、CelloにはNeumann M49にNEVEのマイクプリアンプ…等々、エンジニアによってこの音が好き、合うという判断から組み合わせを考えます。
それと同じようにレコードや音楽性によって、カートリッジ、もしくは針を変えることは、極めて正しいことなのかなと思い始めています。

オーディオは何をしても音は変わりますが、積極的に音楽に向き合うのであれば、レコードの音の入り口である針を意識してみるのは、良い方法だと思います。

MMカートリッジは針を簡単に交換出来ます。そしてJICOはいろいろな可能性を探しています。素材を探し出し新しい音の探求に余念がない「情熱」を感じた、今回の工場見学でした。

合うネジが無くて…とりあえず代用品でひどい状態w
ベッコウ色と黒のカートリッジの組み合わせ、最高

こうして大急ぎでMORITAシリーズ製作体験をさせて頂いたわけですが、帰宅してからレコードプレーヤーに装着して音を聴いた時の感動は、未だ私の中にあります。そして時間をかけてきちんと作られた製品版MORITA「黒柿」への尊敬の念も生まれ、それを使ってレコードを聞くという事が私にとってとても大切なこととなりました。
そして、小さな工場から作られるカートリッジの針が、全世界へ輸出され愛されていることは、これこそ日本が誇るべき姿の一つでもあるのかなと、強く思います。

私が作ったカンチレバーは木製のために経年変化が少しあるらしく、この先どのような音に変わっていくのか、音を育てていくことがとても楽しみです。ぜひ、JICOの針で音楽の世界を広げてみてはいかがでしょう。

the end